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最高裁判所の決定に関するご報告と、
これからの行動計画について

 竹田恒泰氏が私を提訴した裁判の上告審に関する最高裁判所の決定が、本年4月13日に下されました。

 

 東京地裁での一審判決(2021年2月5日)、東京高裁での二審判決(2021年8月24日)に続いて、こちら側の主張が全面的に認められた勝訴でした。最高裁の決定も、公正な判断であったと私は理解しています。

 

 この最高裁の決定により、長く続いた竹田氏との裁判も、こちら側の勝利で完全に終了しました。裁判の開始以来、温かいご支援や応援、励ましを下さった皆様、本当にありがとうございました。心から、お礼を申し上げます。

 

 最高裁での審理は、民訴法311条に基づく「上告事件」と、民訴法318条に基づく「上告受理申立事件」の二つが並行して行われますが、前者は「判決に憲法違反がある場合その他の一定の場合」に上告が成立する一方、後者については「判決に判例違反など一定の事由がある場合」にのみ、最高裁に「上告受理申立」をすることができ、最高裁が「申立てを受理」して初めて上告が成立するという仕組みです。

 

 最高裁の決定は、「裁判官全員一致の意見」として、竹田氏による上告は「棄却」、上告受理申立は「不受理」というものでした。つまり、竹田氏側の言い分は全く認められず、こちら側の完全な勝訴が確定しました。最高裁の決定全文は、本サイトの「最高裁裁判資料/PDF」のページにてご覧いただけます。

 

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 2019年11月23日に竹田氏側の弁護士から(1)竹田恒泰氏を批判したツイートの削除 (2)竹田恒泰氏への謝罪 (3)今後竹田恒泰氏の名誉を毀損しないという誓約 (4)慰謝料500万円の支払いの四つを私に要求し、従わなければ私への裁判を起こすという書面(本サイトの「裁判の経過」ページにて、振込先銀行口座以外の全文をお読みいただけます)が届いてから2年と5か月、2020年1月20日に竹田氏が東京地裁に訴状を提出した時を起点にすると2年3か月という、長い裁判でしたが、この間、多くの皆様からの温かいご支援や励ましの言葉、そして裁判費用のご寄付をいただいたことで、精神的にも金銭的にも追い詰められることなく、一定の余裕を持って、裁判を戦い抜くことができました。改めまして、皆様に深く感謝いたします。

 

 昨年2月に東京地裁で全面勝訴の判決が出てから、今年4月に最高裁で上告棄却の決定が下されるまでの間、私が常に留意したのは、一審勝訴の判決を自分の落ち度で相手に覆されないようにすることでした。過去の戦史(古今東西の戦いの歴史)をひもとくと、本来勝っていたはずの陣営、圧倒的に有利なはずの陣営が、油断や慢心、不運などにより、予想外の敗北を喫するという事例がいくつもありました。せっかく多くの方から、ご支援と応援をいただきながら、自分の軽率な行動でそのような結果を招いてしまったなら、内田樹さんと支援者の皆様に申し訳が立たなくなってしまいます。それゆえ、裁判の審理に悪影響を及ぼすような不用意な言動をとらないよう、細心の注意を払い続けました。

 

 2020年1月に、代理人弁護士の佃克彦さんと裁判の対応を協議した際、竹田氏側はおそらく、一審と二審で敗訴しても、承服せずに最高裁に上告するだろうとの予想を立てていました。それゆえ、裁判が長引くであろうという覚悟はしていましたが、一審で全面勝訴の判決が出るまでは、仕事に集中できない日々が続きました。この期間に裁判のために直接的・間接的に失った時間と集中力は、最高裁までの三つの裁判すべてにおいて私が勝訴しても戻ってこないと思うと、さらに不条理への苛立ちが募りました。

 

 そして、一審で全面勝訴の判決が出たあと、控訴した竹田氏側が、控訴審において「勝つための努力」を放棄したかのようなやる気の無い態度を見せた(私がそう考えた理由については、本サイトの「東京高裁での勝訴に関するご報告と、上告審に向けた気構えについて」をご参照ください)時には、竹田氏が私に対して心理的・金銭的ストレスをかけ続けるために裁判を引き延ばそうとしていると確信し、東京高裁と最高裁でこちら側が全面勝訴しても、それで「終わり」にはしないと心に決めました。

 

 裁判という、社会の健全さや公正さを維持するための公的なシステムを、弁護士費用の出費と引き換えに、このような形で「嫌がらせ」のように悪用する相手に対しては、相手があらかじめ想定している「弁護士費用の出費」に加え、それとは別の形で、自らが行った他者への攻撃的・破壊的行為に対する「代償」を支払わせる必要があるのではないか、と私は強く思いました。

 

 そのような考えに基づき、私は最高裁の決定が下された後も、相手側が私に仕掛けてきた「戦い」を幕引きにはせず、対応の延長としていくつかの行動をとることにしました。

 

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 そのひとつは、私が裁判で経験した内容を、本の形にまとめることです。私の本業は、本を書くことで、専門分野は「戦いと争いの歴史」です。私が今まで書いてきた戦史と紛争史の原稿は、主に文献資料などを基に過去の出来事を読み解いたものでしたが、既に執筆に着手しているこの本は、自分が当事者として参加した「戦い」について、当時頭の中で考えていたことと客観的な事実を組み合わせて再構築する、初めての「戦記」本となります。

 

 裁判における私の主張(竹田氏が常習的に繰り返した差別的言説など)の一部は、陳述書として裁判所に提出しましたが、本の中ではそれ以外の論点についても、検証や裏付けと共に言及し、一連の裁判とその周辺に存在する日本社会の諸問題を、同時代の歴史の記録として、後世のために書き記すつもりです。巻末には、私が裁判所に提出したすべての陳述書と、佃弁護士が作成して下さった準備書面の一部、そして東京地裁、東京高裁、最高裁の判決文を収録します。

 

 また、民事訴訟が日常的に行われるアメリカでは、1980年代から「スラップ(SLAPP: Strategic lawsuit against public participation)訴訟」と呼ばれる「裁判制度の悪用」が社会問題として取り上げられてきました。この英文は「市民参加を妨害する戦略的な民事訴訟」という意味で、大きな財力を持つ政治家や大企業、著名人などの「強者」が、自らへの批判を封じたり、批判的な相手を萎縮させるための威嚇として、一般市民や小規模な組織などの「弱者」に対して行う「恫喝的訴訟」として知られています。

 

「スラップ訴訟」は、訴えられた人間だけでなく、同様に「訴えた側の強者」に対して批判的な周囲の人間に対する威嚇や恫喝の効果も発生させます。「訴えた側の強者」を批判すれば、お前もあのような目に遭うぞ、と脅すことで、批判的な人間を萎縮させ、黙らせるという「見せしめ」になります。権威主義的な政治家が、自分に批判的な人間に対して「スラップ訴訟」を起こすのも、標的となった相手だけでなく、自分を批判する者「全員」の口を封じることが目的です。

 

 アメリカでは、既に複数の州で「スラップ訴訟」を「反社会的行為」として禁じる法律が制定されていますが、日本にはまだ、強い財力を持つ社会的強者が、そうでない社会的弱者に対して、批判封じや威嚇のために行う「スラップ訴訟」を禁じる法律がありません。私は、本サイトの「東京高裁での勝訴に関するご報告と、上告審に向けた気構えについて」で記した理由により、この裁判が、竹田氏を批判した私への報復や、心理的・物理的ストレスの強要のために行われた「スラップ訴訟」であると認識していますが、こうした側面についても、本の中で取り上げる予定です。

 

 現状の日本では、大きな財力を持つ社会的な「強者」が、自分を批判した個人に対して「スラップ訴訟」を仕掛けるケースが相次いでいますが、将来的に日本でも「スラップ訴訟」が「反社会的行為」として広く認識され、それを抑制する法律が制定されることになれば、過去に「スラップ訴訟」を行った個人や組織は、遡及的な処罰は免れるとしても、そのような横暴かつ反社会的な行為についての説明を求められることになるでしょう。

 

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 最高裁の決定を受け、私は4月21日に佃克彦さん、内田樹さんと共に、東京・霞ケ関の司法記者クラブで記者会見を行いました。当初の予定より長く、40分ほどのやりとりになりましたが、私はその会見で「形式上は私が被告だったが、最終的に確定した判決文を読めば、裁判所は原告の竹田氏を裁いたように感じた」と述べました。

 

 その時の記者会見の模様は、以下の東京新聞の記事で、ノーカットでご覧いただけます。

 

【竹田恒泰氏の敗訴確定を受け、山崎雅弘氏らが会見「『日本は素晴らしい』も差別につながる」】(東京新聞)

 

《会見に同席した思想家の内田樹氏は「『裁判でお金かかる』と訴えたら、1414人から1200万円超の寄付が集まった」と協力者に謝意を示した。さらに「日本のメディアには、差別主義や、大日本帝国を懐かしむ主張が出てくるようになってきており、そのことへの市民の不安と怒りが出て裁判の支援につながった」と分析した。

 内田氏は今回の訴訟を、批判を封じて言論を萎縮させる目的で起こされる「スラップ訴訟」だと指摘。弁護士費用などを差し引いて残った寄付金950万円は、差別や、スラップ訴訟で苦しむ人たちへの支援などに使うことを検討するという》(記事より一部抜粋)

 

https://www.tokyo-np.co.jp/article/173143

 

弁護士ドットコム・ニュースも、一審勝訴、二審勝訴の会見と同様、最高裁勝訴の会見も丁寧に記事で紹介して下さいました。

 

【竹田恒泰さんの敗訴確定 「差別主義者」ツイート訴訟 「裁かれたのは彼のほう」】(弁護士ドットコム・ニュース)

 

《勝訴した山崎さんは「裁判には不確定要素はあり、予想外の展開が起こるのではという不安は頭の片隅にあり、ひとまず安堵した」と胸をなでおろす。そのうえで、竹田さんの起こした裁判は「スラップ訴訟」(いやがらせの訴訟)だったと指摘する。

「一審の(竹田さんによる)陳述書はすごい分量でしたが、控訴審は弁護士から1通も準備書面がなかった。やる気はなく、アリバイ的な控訴で、勝つつもりもなく、物的心理的ストレスをかけているのだと感じました」

 今回の裁判では、形式上、被告の山崎さんが"裁かれる立場"だったが、「裁判官は竹田恒泰氏を裁いた」と強調する。

「竹田氏は一審の途中から(ツイッターで)裁判に触れなくなりました。個人的な認識ですが、負けて悔しいというのもあるでしょうが、判決文を読むと、裁判官は竹田恒泰氏を裁いたとの認識があります。竹田氏も裁かれたという認識があるから触れないのではないでしょうか」

 東京高裁の控訴審判決では、新たに次の文言が追加された。

〈被控訴人(=山崎さん)が、上記のような手法をも用いる控訴人(=竹田さん)の活動ないし言動に関し、『人権侵害常習犯の差別主義者』等の強い表現を用いて批判的な意見ないし論評を表明したことも、ツイートとして相当と認められる範囲にとどまるというべきである」

「これを普通に読めば、裁かれているのは竹田氏なんです。過去に竹田氏がどんな言論をしてきたか精査した上で判決をくださったはずです」(山崎さん)》(記事より一部抜粋)

 

https://www.bengo4.com/c_23/n_14401/

 

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 記者会見での内田樹さんのお言葉にありますように、今回の裁判へのご支援として寄せられた寄付金の残額は、いわれのない差別や、理不尽な「スラップ訴訟」で苦しむ人たちへの支援などに使うことを予定しています。

 

 東京地裁、東京高裁、そして最高裁の三つの裁判について、ご支援をいただいた皆様に「最上の結果」をご報告できて、本当によかったです。このご恩は決して忘れません。皆様、本当にありがとうございました。


 

2021年4月30日 山崎雅弘

2022.5.8「最高裁判所の決定に関するご報告と、 これからの行動計画について]
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